このブログでは、すい臓がんを完治するまでの、知識と経験を共有していきます
【闘病記15】術後、抗がん剤 TS-1 衰弱で心が折れそう
こんにちは、チコです。
今回は、すい臓がん術後の補助化学療法(抗がん剤 TS-1治療)の経験をお話しします。
前回お伝えしたとおり、手術から退院直後、腹痛に悩まされはしたものの
家族みんなでの食事、ドライブ、散歩を楽しみ
姉から「手術直後とは思えない」
手術後なのに、ご飯もたくさん食べられるし、元気。先生に感謝しなきゃね
と言われるほど、回復したかのような日々でした。
ところがその後、抗がん剤 『TS-1』が始まると、体調が一転、衰弱へと向かっていきます。
今回は、ここからお話しします。
術後補助化学療法として抗がん剤『TS-1』を開始
すい臓がんの術後の補助化学療法の一つとして、抗がん剤『TS-1』治療があります。
膵がんの術後補助化学療法
術後の状態が落ち着いたところで6ヵ月間のS-1による術後補助化学療法を行います
出典:国立がん研究センター東病院
私も、術後40日後から、この抗がん剤『TS-1』治療を、約半年ほど続けました。
ここでは、これから 『TS-1』治療を始める人のために、通常の
- 治療スケジュール
- 副作用・発現時期・対処方法
をお伝えしたあと、私の経験について、お話ししていきます。
抗がん剤『TS-1』とは
抗がん剤『TS-1』は、実は、すい臓がんだけでなく、様々ながんに用いられる内服薬です。
通常、胃がん、結腸・直腸がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、手術不能または再発乳がん、膵がん、胆道がんの治療に用いられます
出典:ティーエスワン|くすりのしおり
薬の主な成分は、以下の3つ。
- テガフール:体内でフルオロウラシルに変わり、がん細胞の増殖をおさえる
- ギメラシル:フルオロウラシルの効果を持続させる
- オテラシル:フルオロウラシルによる胃腸障害を軽くする
すい臓がんの化学療法の中では、比較的、副作用が穏やかといわれているお薬です。
(一般的な) 膵がん・術後の『TS-1』治療スケジュールと、副作用
一般的に言われている『TS-1』の治療スケジュールと副作用は、私が実際に経験したものとは異なったため
- 一般的なはなし(※ 後述する国立がん研究センターなど病院の資料をもとに記載)
- わたしの経験談(※ 2020年1月~7月までの私の『TS-1』治療)
とに分けて、お伝えします。
(通常の)治療スケジュール
通常、すい臓がんの術後補助化学療法の『TS-1』の服用は以下のようになります。
- 内服薬:1日2回(朝、夜)服用
- 1サイクル:4週服用+2週休薬(6週間)
- 期間:6ヵ月間
(よくある)副作用・発現時期・対処方法
一般的に起こりやすい副作用としては、
食欲不振や吐き気、頭痛や発熱、腹痛や下痢、倦怠感、などが起きやすいと言われています。
治療開始後すぐに感じるものから、数週間ほど後に感じるものまで、副作用が起きるタイミングも様々です。
副作用の詳細、対策については、以下の国立がん研究センターのサイトが参考になります。
(私の経験) 膵がん・術後の『TS-1』治療スケジュールと、副作用
先述した通り、私の治療スケジュールや副作用は、一般的なものとは少し異なりました。
ここからは、私の体験談です。
(私の場合の)治療スケジュール
私の場合は、主治医の先生が私の体力や術後という状況を考慮し、以下のようにアレンジしてくださいました。
※1 1サイクルの期間が、通常より短いです
- 内服薬:1日2回(朝、夜)服用
- 1サイクル:2週服用+1週休薬(3週間)※1
- 期間:6ヵ月間
膵がんの化学療法の種類と、私が受けた抗がん剤治療
今回の『TS-1』の私に起きた副作用についてお話しする前に、
膵がんの抗がん剤の種類と、私が術前に使った抗がん剤『フォルフィリノックス』について、少し触れさせてください。
膵がんの抗がん剤(化学療法)治療としては、以下のものがあります。
- FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法
- TS-1(エスワン)療法
- ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
- ゲムシタビン療法
- ゲムシタビン・TS-1療法
- フルオロウラシル・レボホリナート・ナノリポソーム型イリノテカン療法
- 化学放射線療法
参考:国立がん研究センター東病院 ※2022/1現在、掲載されていた病院のHPを参考
私が、膵がんと診断され、最初に受けた治療は、このリスト番号1の、FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法でした。
フォルフィリノックスの治療当時の様子は、以下の記事でご覧いただけます。
この治療は、TS-1より、ずっと副作用が重いと考えられている治療。
そのため、「フォルフィリノックス治療を乗り切れたのだから、TS-1も余裕なはず」と高をくくっていました。
(私の経験した)副作用・発現時期
ところが、これがとんでもない誤算。
私にとっては、『TS-1』は『フォルフィリノックス』よりずっと辛い治療となりました。
不快な症状は、服用開始から数日で出はじめ、2サイクル目以降、より顕著となっていきました。
具体的には、
❶ 服用後に吐き気がひどくなり、飲んだ薬も吐いてしまう。
これではいけないと、吐き気を抑えるため、服用後は一歩たりとも動かないように。
❷ 術後からはじまった下痢も、 『TS-1』の服用開始からは、1日20回以上、1回トイレに入ると30分は出てこれないほどになっていきました。
そして
❸ 口の中の粘膜がボロボロになり、ついには、朝起きると上下の唇同士が張り付き、口が開かないしまつ。
他にも、
❹ 毎日の倦怠感との闘いや、腹部膨満感、腹痛もひどくなっていきました。
正直言うと、術後ということもあり、手術の影響なのか抗がん剤の副作用なのか、もはや訳が分からない状態でした・・
※ 副作用や術後後遺症として考えられる不快な症状の一覧について、次の章でまたご紹介します。
副作用が強くでた理由は「体力の低下」
さて、「これでもか!」というほど、本当に様々な不調が、次々と同時多発的に襲ってきたわけですが
これら不快な症状は、長期にわたって続くこととなりました。
抗がん剤の副作用がより酷く長くなる要因の1つとして
「体力の低下」が大きかったと、私は考えています。
私の場合は、以下のような「副作用→体力低下→副作用の負の連鎖」に陥ったことが発端となり
副作用や後遺症に、ひどく長いあいだ悩まされることになりました。
手術の後遺症+抗がん剤の副作用、ダブルパンチでノックダウン
そんな、私にとっては、ツラかった抗がん剤『TS-1』の副作用ですが
術後の後遺症と合わせ、2年間の中で経験した症状を、リストアップしていきます。
(※ より詳しい症状や対処のしたかについては別途書きます)
- 吐き気
- 下痢
- 腹部膨満感
- 腹痛
- ひどい肩こり
- 衰弱・体重減少
- 倦怠感
- 口内炎と出血
- 蕁麻疹
- 涙目
- 不眠
- めまい
- 関節リウマチ
- シミ
- 高血糖・糖尿病
- 貧血
- 湿疹
これからお話しする、手術の後遺症と抗がん剤の副作用については、あくまで私のケース。「こんな人もいるのね」と気軽にご覧ください。
症状については、個人差がかなり大きく、実際には「すぐに仕事復帰できるほど軽く済んだ」という方も多くいらっしゃいます。
吐き気:食後の嘔吐との闘い
手術直後には、モリモリあった食欲ですが
抗がん剤『TS-1』治療のスタートとともに
- 常に感じる吐き気
- 食後の嘔吐
に悩まされるようになりました。
下痢:1日20回以上のトイレ
手術直後からのひどい下痢。それでも当初、家族と外出(ドライブ、散歩、外食)を楽しむ余裕もありました。
ところが、抗がん剤『TS-1』が始まると、下痢が悪化。
1日に20回以上ものトイレ通い、一旦トイレに入ると20〜30分は出てこれない状態となりました。
腹部膨満感:パンパンに張ったお腹が苦しい
下痢とともに、ひどい腹部膨満感で、かなり辛い思いをしました。
ガスが充満しパンパンに張ったお腹は、苦しいのはもちろん、服装にも影響。
術後2年間は、妊婦さん用のジーンズや、ゆったりしたワンピースしか着れない身体に。
腹痛: 麻薬系鎮痛剤のお世話に
下痢の悪化にともない、腹痛も悪化。
当初、ロキソニン、ブスコパン、トアラセットで抵抗するも、四六時中続く痛みを抑えることはできません。
緩和ケア科の痛み専門ドクターに相談し、麻薬系の薬(ナルラピド、ナルシス)で、痛みのコントロールをしました。
肩こり:辛すぎて身動き取れず
下痢でトイレにこもった後、時々発症したのが、耐えがたい肩こりや、全身痛。
今思えば、放散痛だったのかもしれません・・
痛みで、一歩も動けない、ナルラピドを服用し痛みのピークが過ぎるのを待つ・・そんなことを繰り返していました。
衰弱・体重減少:35kg、衰弱の加速
術後の不調(下痢、腹痛、吐き気)がひどくなり、 「食欲がないなら、食事をとらなければいい」 と開き直った時期がありました。
これをきっかけに、 体重減少に拍車がかかり35kgになった私の身体は、もはや骨と皮のみでした。
衰弱という谷底へと転げ落ちる自分を目の当たりにし、この時はじめて、「食事をとらなければいい」という甘い考えを悔やんだのでした。
(ちなみに、最初の抗がん剤『フォルフィリノックス』の時は、この「負の連鎖」に陥らないよう、かなり気をつけていたため、むしろ体重を増やすことができました)
倦怠感:体が鉛のように
倦怠感も術直後からありましたが、抗がん剤による衰弱から、より酷くなりました。
体が鉛のように重い、ベッドに横たわることさえ辛い、そんな日々。
ただこのひどい倦怠感は、抗がん剤の終了とともに、徐々に解消。術後2年を過ぎ、ほぼなくなりました。
口内炎と出血:唇の皮がむけ開かない
口内炎、これは抗がん剤の服用期間中だけでしたが、これまで経験したことのないひどい症状。
炎症は、口の中はもちろん、唇にまで広がり、皮のむけた唇同士が張り付いてしまい、朝、口を開けることができなくなる状態でした。
そのため、毎朝起きると、まず最初に、指で、張りついた唇同士を丁寧に引き離すという作業が必要に。
涙目:ねばねば涙で目が開かず
『TS-1』開始から3ヶ月ほど経過したころ始まった涙目。
常にねばねばした涙が目から溢れ
- 目が開けづらい
- 目の周りがチクチクする
- 目の周りの皮膚がタダれる
といった症状に悩まされるように。この症状は、今現在も少し残っています。
不眠:悪夢いやむずむず脚症候群に襲われる
術後から不眠もひどくなりました。
不眠の原因としては、様々な要因が考えられると思いますが、
私の場合、腹痛や下痢、お腹のゴロゴロが深夜まで続き、不眠がひどくなったように思います。
めまい:何日も船酔い気分
以下のような2種類の、めまいが起きることもよくありました。
- 立ちくらみのように血の気が引く
- 目の前にものが回転しクラクラする
診断では、前者は抗がん剤による貧血が原因、後者は耳石が原因とのことでした。
関節リウマチ:朝になると指が動かず
起床直後、指が動かなくなる時期がありました。
身体が弱ると、本当にいろいろな症状が出てくるものですね。
手術前に行った治験オプジーポの影響?か、リウマチ因子が増えていました。
シミ:顔や体から足の爪まで黒いシミに
体のいたるところに、色素沈着が起きました。
特に気になったのは、顔のシミ、指や爪の黒ずみ、腹部や太ももの黒ずみです。
現在、指と爪の黒ずみはなくなり、顔と腹部のシミはまだ少し残っています。
痔:ひどい下痢の結果、痔を発症
下痢が悪化することで、痔になってしまいました。
最初に痔を発症したのは抗がん剤中。2週間ほどで一旦治ったものの、その1年後に再発。
結局、手術をしなければいけないほど、悪化をしてしまいました。
貧血:むずむず脚症候群の原因にも
貧血の指標の1つフェリチンの値が特に低く、立ちくらみなどの症状が常にありました。
しだいに、不眠の原因ともなった「むずむず脚症候群」を発症するようになり、鉄剤を処方してもらうことに。
しかし、鉄剤を服用すると下痢や腹痛がひどくなり、なかなか治療がうまくいきませんでした。
湿疹:毎日かゆいかゆい
時々、体中がかゆくなり、湿疹が現れることがありました。
この症状については、アレロックの服用がよく効いたため助かりました。
また、ムヒなどのかゆみ止めも常備し、活用しました。
糖尿病:食後高血糖から糖尿病を発症
術後から、時々、低血糖の症状に悩まされるように。
血糖測定器「リブレ」を購入し、24時間計測してみると、血糖値の乱高下が判明。
ひどい時には、食後500近くまで急上昇。その後、50近くまで急降下。
体調も悪くなり、夜遅くでしたが、訪問医療の看護師さんが駆けつけてくださいました。
糖尿病センターで経口ブドウ糖負荷試験を受けたところ、糖尿病と診断。
糖尿病専門医によれば、「手術の影響(胃の幽門切除)からの食後ダンピングではないか」ということです。
食後高血糖と糖尿病については、いろいろお話ししたい事があるので、また別記事で詳しくご紹介します。
・・更に、コロナ禍の引き籠りが、体調不良に追い打ちを
ここまでで、術後の後遺症や抗がん剤の副作用による不調を書いてきましたが・・
「手術や抗がん剤は、こんなにも身体にダメージがあるの?!」
と、驚かれた方も多いかもしれません。
- 実際、以前、「手術の侵襲は侮れない」とお話ししていた看護師さんの言葉が印象に残っています。
- 一方で、「手術後もすぐ元気に活動できてます!」とおっしゃる方も多いです。
がんの治療経過は、本当に個人差が大きいようですが
なぜ、私の体調不良はここまで悪化し、さらに長く続いたのか・・・?
その原因は、以下の2つにある、と私は思っています。
- 先述した「体力低下の負の連鎖」
- 長引くコロナ禍のストレス
コロナに関しては、もちろん私だけではなく、世界中にとてつもなく大きな打撃を与えました。
ご存知の通り
コロナによる外出制限や、絶え間なく流れる暗いニュース、感染への恐怖は、
芸能人やアメリカ人の医師の件で知られるように、優しく繊細な心をもった人たちを、自殺へと追いやりました。
そして、私のひどく弱った身体にも、
計り知れないダメージがあったように思います。
衰弱で弱った私と、訪問看護師さんの涙
さて、そんな後遺症と副作用まんさいの2年。
最初の頃は、どんどん衰弱していく身体の変化に
挫けそうになる自分がいました。
ポンコツな当時の日記
抗がん剤『TS-1』の服用をはじめ、1ヵ月ほど経った頃の日記です。
日記 2020年2月14日
いまトイレにこもりながら、この日記を書いている。
今日も、朝から、下痢・腹痛・倦怠感でつらい・・
術後ずっとこんな調子で、いい加減、心身ともに疲れてきた。
体重は、38、37kg、どんどん減っている。
「私このままどうなってしまうの?死んでしまうのか?・・」
と、ネガティブな心の声が聞こえた。
一瞬、病気に負けそうになる自分がいた。
訪問看護師さんの涙
数日後、訪問看護で来てくれた看護師さんに、この私の抱えているつらさを伝えました。
目に涙を浮かべながらも、泣くのを必死にこらえ、ただただ頷きながら、私の話を聞いてくれる看護師さん。
このときの彼女の表情は、忘れられません。
そして、私は、更にこう綴っています。
日記 2020年2月18日
思えば、私の周りには、パワーをくれる人たちがたくさんいる。
訪問できてくれた看護師さんが、私のくだらない愚痴や話を聞き、目に涙を浮かべていた。
私のために涙してくれる人がいる・・
泣くのを必死にこらえる彼女の顔は忘れられない。
毎日、ベッドとトイレの行き来しか出来ない日々に、本当に落ち込んでしまうけど・・
でも、転んでもタダじゃ起きないぞ。
身体がつらい今だからこそ出来ることを考えてみよう。
もう一度頑張ってみよう。
もう一度頑張ってみよう
この時期の学び – 逆境をチャンスに、今だからこそ出来ることをしよう
術後の後遺症、そして抗がん剤の副作用に打ちのめされ、心身ともに弱ったとき
訪問看護師さんの涙を目にし
もう一度頑張ってみよう
「まだ頑張れる」と思えるようになりました。
結局この後、約2年にわたる辛い時期を経験することになるわけですが・・・
「つらい、もうだめだ」と感じるたび、この
もう一度頑張ってみよう
という心の声とともに
逆境をチャンスに、今だからこそできることをしよう
何もできない今だからこそ「出来る」ことがあるはず
と、自分自身を奮い立たせていたのでした。
◇ ◇ ◇
たとえば、ベッドから1歩も出られない時
まだ思考能力があれば、将来のプランを考えてみる、やりたかったクリエイティブなことに思いを巡らす
もはや考える気力さえなければ、興味があっても忙しくなかなか読めなかった本に挑戦してみる、映画を観てみる。
たとえば、ただ目を閉じ、ただただ耐えることしかできないとき
心癒される音楽や自然音を聴いて、五感を刺激する。
こんな風に、体調が悪い時期を一つ一つ乗り越えました。
◇ ◇ ◇
当時の日記には、「逆境をチャンスに」と書いていました。
誰だって、生きていれば、不都合は起きる
でも、成功する人は、きっとこの発想の転換がはやく
幾つもある選択肢の中から、ベストを選ぶ能力に長けているのだと思う
私も、発想の転換をしよう
逆境をチャンスに変えよう
逆境をチャンスに変えよう
おわりに
今回は、手術の後遺症と術後抗がん剤の副作用についてお伝えしてきました。
日記をたどりながら、症状をあげてみると、本当にたくさんの不調が次から次へと起き、「辛い時期だったな」とあらためて感じます。
3歩進んで2歩下がるような日々を過ごし、体力に少し自信がついてくるまで、なんと2年もかかりました。
正直いえば、この記事を執筆している時点でも、まだ完全に体力が戻ったわけではありません。
とはいえ、確実に前へ進んでいる実感はあります。
次の記事では、この私の体調不良を長引かせた原因の1つ「コロナ禍のストレス」についてお話しさせてください。
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